2017年8月,畜ガールズ第1回ブロック長会議の際に,臨床心理士の山内志保先生(東京成徳大学大学院 心理・教育相談センター)に「メンタルヘルスとセルフ・コンパッション」と題してセミナーを行なっていただきました。その内容を以下,ご紹介します。

 

獣医師のメンタルヘルスとその現状
海外の研究では,なんと獣医師の自殺率はその他の医療従事者の2倍,一般の労働者の4倍にも上ることが指摘されているのだそうです。獣医師有資格者の内,およそ6割が精神的不調を実感しているにも関わらず,実際の治療を求めたのはその半数という...。精神科受診の敷居の高さやメンタルヘルス不調への自覚の乏しさに警鐘を鳴らす研究もあるとのことです。

 

日本の獣医療従事者についていえば,未婚者よりも既婚者の方に抑うつ傾向が強くみられるそうです。これは,日本では仕事と家庭の両立が難しかったり,子育てや家事は女性の仕事という観念が強いためであったりするようです。

 

メンタルヘルスの不調のサインには次のようなものがあるということです:

 

※山内先生のスライドをウェブ報告用に加工したもの

セルフ・コンパッションとは
自分の痛みや傷つきに目を留め,それを受け止め,優しさと理解をもって扱うこと --- これをセルフ・コンパッションというそうです。(Compassion: 慈悲,慈しみ)

 

セミナーではこんなことをしました:

 

振り返ってみましょう:

 

① 失敗やミスをした時,あるいは自分の理想とする結果を得ることができなかった時,あなたは自分に対してどんな言葉を言っているでしょうか?

 

② もし,みなさんの大切な人(家族や友人など)が失敗やミスをして落ち込んでいたとしたら,あなたはどんな言葉をかけるでしょうか?

 

私の場合はこうでした:

 

①「あ~,ほんまアホやな!」「なんであんなことやってもうてんや?」「なんでやる前に気付けへんかってんや?!」「あ~,ほんま自分サイアクやわ!!」(なぜか関西弁)

 

②「大丈夫,大丈夫。だって○○だったんでしょ? しょうがないよ。」「全然問題ないよ。○○すればいいわけだし。」

 

なんと,真逆!!

 

相手の傷つきや辛さには気付けるのに,自分の傷つきや辛さには気付きにくい,あるいはそれらを認めにくいという...。なるほど。そこで,自分の大切な人に向けるのと同じケアと優しさでもって,自分自身を扱うという,セルフ・コンパッションの必要性が出てくるわけですね(ちなみに,一緒にセミナーを受けた方の中には,①と②の言葉が同じだったと言う方も結構いらっしゃいました!)

 

※山内先生のスライドをウェブ報告用に加工したもの

セルフ・コンパッションを持つというのは,

 

・自分が体験している感情,身体的な疲労や苦痛,考えている事柄などをありのまま認める。


・自分の心や身体の調子を気にかける。


・自分の心身をいたわる行動をとる。

 

ということだそうです。

 

セミナーではこんなこともしました:

 

体験してみましょう:

 

① あなたに対して,冷たく,批判的な人が目の前にやってきたところを想像してみましょう。どんな気持ちになるでしょうか。身体はどんな感じがしてくるでしょうか。どんなイメージが思い浮かびますか?

 

② どんなあなたのことも無条件に受け入れてくれて,あたたかく思いやりをもって接してくれる人が目の前にやってきたところを想像してみましょう。どんな気持ちになるでしょうか。身体はどんな感じがしてくるでしょうか。どんなイメージが思い浮かびますか?

 

①の時の自分の状態と,②の時の自分の状態を比べてみましょう。どんなことに気づきましたか?

 

私は①で苦しくなって泣きそうになり,②で安心してもっと泣きそうになりました。

 

セルフ・コンパッションには3つの要素があるそうです:

 

※山内先生のスライドをウェブ報告用に加工したもの

うつ状態とセルフ・コンパッション
研究では,セルフ・コンパッションを取り入れたワークを行なった群とそうでない群とを比較すると,憂鬱な気分を感じる度合いは変化しないのに,憂鬱な気分からの回復過程に有意な差がみられたそうです。つまり,セルフ・コンパッションの程度が高い人ほど,恐怖や敵意,苦悩といったネガティブな感情の反すう(繰り返し考えること)の頻度が少ないということ。なるほど。

 

セミナーでは他にも,次のようなエクササイズをしました:

 

10秒呼吸法:「1, 2, 3, 4」で息を吸い,「5」で止める。「6, 7, 8, 9, 10」で息を吐く。ゆっくりと。


ボディ・スキャン: 意識を自分の身体のひとつひとつの部位に集中させていく。目を閉じて,じっくりと。


イメージを用いたセルフ・コンパッションのワーク

 

さて,セルフ・コンパッションの具体的な方法としては,以下のようなものがあるということです:

 

・ハードワークを控える
・マッサージを受ける
・昼寝をする
・毎日シャワーだけなら,湯船につかる
・アロマ・お香を炊く
・園芸や畑仕事などを通して,土に触れる
・喜劇・漫才などをみる
・癒し効果のある音楽を聴く
・30分ほどヨガやストレッチをする
・自然の中を散歩する
・うつ伏せになって誰かに背中をさすってもらう
・リラクセーション法を実践する
・お守りになる言葉を思い浮かべる

 

まとめ:セルフ・コンパッションのポイント

山内先生に教えていただいた,セルフ・コンパッションのポイントです:

 

① セルフ・ケアのための時間,自分のための時間を,生活の中に確保しましょう。


② 心のなか,頭のなかで起こっている“自己批判の声”を意識してみましょう。


③ “自己批判の声”に傷ついている自分,やる気を削がれている自分,落ち込んでいる自分,消耗している自分がいないか,確かめてみましょう。
(※ こうした自分の声は,非常に小さくなっているため,身体の感覚を手掛かりに注意深く探すことが大切です。)


④ 優しくされた体験,心が穏やかになる景色,愛情を注いでくれた人などを思い浮かべて,それらを傷ついて消耗している自分に向けましょう。


⑤ 自分は,愛される価値があり,誰かにとっての大切な存在であることを,折に触れて思い出しましょう。

 

いかがでしょうか?

 

「メンタルヘルス」という言葉は最近よく聞きますが,「セルフ・コンパッション」という言葉は,私はこのセミナーで初めて聞きました。失敗やミスをした時に自分にかける言葉と相手にかける言葉が真逆だったことは,私にとってかなりの衝撃でした。「セルフ・コンパッションって,そういうことか~!!」とすごく納得しました。

 

みなさんもセルフ・コンパッション,いかがですか?

 

(報告:ジャスミン)